『新米ピアニスト』あらわる。藤田真央さんの上質なおこめ感!
新米の季節になりましたね。
食欲の秋。お米が美味しいと気になるのは”おかず”。
梅干し、新鮮な生卵とお醤油、いくら、高菜……。
炊き立てのご飯そのままでも充分おいしいですが、上質な新米だからこそ、他の食材を組み合わせて楽しみたくなるもの。
そんなピアニストの演奏を聴いてきました。
藤田真央さんです。なんとまだ高校2年生。
9月8日、大田区民ホール・アプリコにて行われた
お昼のピアノ・コンサート。
なんと入場無料!
蒲田駅からすぐです~。
もう、藤田さんの演奏がいろいろな意味ですごすぎて
私は最初から最後まで白目をむきながら笑っていました。超衝撃。
たった1時間で、彼の宇宙規模な可能性を見せつけられた感じです……。
いやぁ、すごい人がたくさんいるものだ……!
「綺麗な五角形」で、誰からも愛される素直な表現にびっくり
今回のプログラムは、こちら。
モーツァルト:「デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲」
ドビュッシー:前奏曲集より「アナカプリの丘」「雪の上の足跡」「西風の見たもの」
プロコフィエフ:ソナタ第6番「戦争ソナタ」
性質のかなり異なる作品を組み合わせているにも関わらず、
テクニックや表現が驚くほど安定しているのです。
作曲家ごとの得意不得意もなさそうでしたし、この表現方法が苦手なのかなと感じる瞬間も一切ありませんでした。
(作曲家ごとにムラがあるのって、10代なら割とある話だと思います。プログラムでうまく隠したのかもしれないけど……それでもすごい!)
もちろん、精神の脆さからくるようなミスや焦りなども皆無。
安定しているからといって没個性的なわけでもなく、作品自体の魅力が損なわれない程度に「藤田色」も滲み出ていました。
『技術、表現、魅力、安定感、レンジの広さ』のように、彼の能力を細かく分けて五角形に表せば
とても綺麗な形になるでしょう。文句のつけようがないとはこのことです。
このバランスの良さ、小学生のころから様々なコンクールで賞を総なめにしているのも納得。
あまりに完璧すぎたので、「この子は師事している先生のクローン(=自分の考えではなく、先生の指示するままに弾くタイプ)なのか?」という疑念さえ生まれるほど。
ですが、アンコールを聴いた私はまた白目をむいたのでした。
ヴァイオリニストのクライスラーが作曲した「愛の悲しみ」。
ラフマニノフがおしゃれに編曲したものは存在するのですが、今回藤田さんが弾いたのはもしかして、さらに藤田さん自身がアレンジしたものかな?
高度な技巧と、弾き手の音楽的センスが問われるアレンジを、いとも簡単に、心から楽しんでいるような余裕のある演奏で魅せてくれて脱帽。
キラキラ感溢れる、ロマンティックでムーディーな「愛の悲しみ」、初めて聴きました。
こういうアンコールピースばかりを集めたCDを藤田さんが出してくれたら、絶対ヘビロテする……!
うう、一瞬でもクローンとか思ってすみません……!!
上質な新米だからこそ
新米の話へ戻りましょう。
今時点の藤田さんが持つ音楽は
「とても新鮮で上質な食材を、そのままいただいている」ような聴き心地だったんです。
まだ若いから何にも染まっておらず真っ白。でも既に高水準で、安定している。
クセのない、作品に誠実な演奏。そしてみんなに愛されそうな笑顔!
それがなんだか「炊き立ての新米」を連想させて……。
これだけでこんなにおいしい演奏と、たとえばヴァイオリンを併せてみたら?
ピアノ3重奏で複雑な味わいにしてみるのはどうだろう。
いっそ2台ピアノは? などなど。
彼と「他の誰か」の共演の妄想が、期待と共に膨らむんです。
ウェブに載っているインタビューを見るに、藤田さんは幼いころからあらゆる演奏家のCDを聴いてきたようす。
名だたる巨匠から柔軟に学びとり、自身の音楽表現に昇華していくその素直さが、新米を連想させたのでしょうか。
これから彼が音楽をより深く学んでいく過程で、
様々な演奏家との室内楽や伴奏を経験し、古今東西の作品を習得していけばしていくだけ
無限の変化を見せてくれそう。彼がどのような道を歩んでいくのか楽しみです!
最後に、藤田さんはCDも2枚出しています。いつも面白い視点からクラシック音楽を紹介してくれるNAXOS JAPANさんより発売中。(ナクソスさんのファンすぎてこういう表現になります。あしからず)
新米のような演奏、ぜひ実食して確かめてみてください!
……にしても、次から次へとすごい才能を持った人がたくさん出てきます、音楽業界。
もっといろんな人の耳と、縁がむすばれますように……!