音楽系女子のコン活事情

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芸劇が吼える、25年目の『トゥーランガリーラ交響曲』(『東京芸術劇場開館25周年記念コンサート ジョワ・ド・ヴィーヴル―生きる喜び』レポート②)

東京芸術劇場25周年記念コンサート『ジョワ・ド・ヴィーヴル―生きる喜び』レポート、後編です。

前編はこちら。

 

classic-qupid.hatenablog.com

 

 

 

第二部:希望と愛

 

玉虫の羽音が聴こえる。

独特な奏法やリズムを不規則に取り合わせた、小出稚子さん作曲「ウィンド・アンサンブルのための『玉虫ノスタルジア』」が、第2部のはじめに演奏された。

捉えるのが難しいサウンドだが、不思議と耳なじみはいい。

玉虫色特有の、ぬめりと湿ったような光沢が音の中に融けているのを見つけた。

 

続いては、ストラヴィンスキーの組曲『火の鳥』(吹奏楽編曲版)。

存在するいきものである「玉虫」から、想像上のいきものへ――。ここにも鈴木優人さんのスマートな発想が光る。

静かに羽音を立てていた先ほどとは一転、大きな翼が力強く天を駆け、鮮やかに展開していく。

艶やかで夢想的なメロディーから楽器がビリビリと金切り声をあげる激情の瞬間まで、全曲を表情豊かに、芸劇ウインド・オーケストラは圧倒的な集中力で駆け抜けていった。

 

* 

 

コンサートの最後を飾るのは、メシアンの「トゥーランガリーラ交響曲」

全10楽章、演奏時間は約80分という超大作。

しかもタイトルが「トゥーランガリーラ(=サンスクリット語で、「愛」「喜び」「時間」「運動」「生と死」など多義的な意味を持つ)」という、なんともとっつきにくいもの。

 

しかもこのメシアンという作曲家、音と色の共感覚の持ち主で、今までクラシック音楽史上に存在しなかった独自の理論を創り上げ、作品に反映させた人でもある。

そんな一筋縄ではいかないところに、『超人的・宇宙的規模の無限なる愛の喜びが表現されている』と言われても……と、普段の私なら、その抽象的すぎる作品テーマに目を白黒させてしまうところ。

 

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しかし前2曲で、玉虫の繊細に色を変える上羽の音を、そして架空の不死鳥を自由にイメージしていたことで、私の想像力の翼はすっかりたくましくなり、

東京交響楽団の明瞭なサウンドも相まって、メシアンの音楽に乗ってどこまでも高く飛んでいくことができた。

「トゥーランガリーラ」という壮大な概念を、すっかり受け入れられる不思議。これも鈴木さんの計らいなのだろう。

鈴木さんはどのコンサートでも、聴き手の想像力をぐんぐん伸ばし、音楽の風に乗って飛翔する楽しさを教えてくれる。

 

 

長く続いたメシアンとの「愛について」の旅も、フィナーレが近づいてくる。

『トゥーランガリーラ交響曲』最終楽章、全楽器が渾身の力をふり絞って響き渡るとき、ホールの壁も大きなスピーカーになったように鳴動しているように見えた。

25年間、絶え間なく生まれ続けてきた名演が染み出し、曲に溶け込むかのように。

 

東京芸術劇場が鳴り響く。25年の間に出演した、すべての芸術家による大合奏。

全員が音楽への愛に喜び震えている。メシアンが目指した『宇宙的規模の愛の表現』が、ここに実現していた。

 

 

響きのなか、芸劇が吼える。

 

「まだまだ25歳! 私はもっと進化する!!」

 

同世代といえるホールの心からの叫びに、私も奮い立たされた。

 

 

http://www.geigeki.jp/house/images/concert.jpg?1410

(画像は東京芸術劇場HPよりお借りしました。) 

 

 

この日はその後、友人の弾き語りを聴くべく

新宿歌舞伎町の地下ライブハウスへ。

 

歌舞伎町の地下で

ピアノとギターを鳴らして「愛」を歌う友人を見つめながら、

「宇宙規模の愛」へのはじまりを感じた。