鈴木優人さんに導かれる――祈り、感情、時間の旅路(『東京芸術劇場開館25周年記念コンサート ジョワ・ド・ヴィーヴル―生きる喜び』レポート①)
着席し、プログラムを1ページめくる。
オードブル―――『祈り』
色とりどりの山海の珍味11品を、即興演奏の味付けで。
まるで踊りだしたくなるようなハーモニー。
お魚――――――『希望』
人一倍遊び心と夢に溢れた東西二人のシェフの競演。
「玉虫」と「火の鳥」を添えて。
お肉――――――『愛』
1990年にちょうど改訂版が出版された25年熟成の「トゥーランガリーラ」。
壮大な愛の歌は、まさに新しい時代の祝宴にふさわしい作品です。
(鈴木優人さん著)
フルコースのお品書きを見て、胸が高鳴った。
なんてわくわくする表現なのだろう!
ということで、フレンチ・レストラン『東京芸術劇場開館25周年記念コンサート ジョワ・ド・ヴィーヴル――生きる喜び』に足を運んだ。(11/1)
「Salonette」の麻衣さんとともに伺わせていただきました。(いつも本当にありがとうございます!)
正直、プログラムをめくるまで
「メシアン」や「モテット」など、普段聴く機会の少ないものたちを前に少し気おくれしていた。
しかし、”複雑で、少し知識を要する”―――クラシック音楽とフランス料理の共通点で結びつけた粋な計らいにより、私の抵抗感はみるみる薄れていく。
「そんなに難しく考えないで? まずは一緒に楽しみましょう。」
そう優しく声をかけられたような心地。この記念コンサートは、東京芸術劇場に足繁く通う愛好家以外にも広く開かれているのだなと感じる。
お品書きの文章で私たちをもてなしてくれたのは、鈴木優人さん。
(画像は鈴木優人さんTwitterのプロフィールよりお借りしました。)
このコンサートのアーティスティック・ディレクターであり、今日は指揮者と、ポジティフ・オルガン奏者として出演する。
ほかにも作曲、舞台演出など手広く仕事をされていて、その視野の広さによる柔軟な発想が、今回も私たちの手を引き誘ってくれた。
第一部:祈り
舞台の頂上近くに鎮座するパイプオルガン、舞台上にはバッハ・コレギウム・ジャパンの合唱団員、そしてポジティフ・オルガン。これらを自在に組み合わせ、14世紀の作品から現代の曲までを交互に歌い紡いでいく第1部。
(ポジティフ・オルガン。画像は盛岡市民文化ホールさんよりお借りしています。)
第1部で取り上げられた作品は、いずれも「祈り」の籠ったものばかり。
イエス・キリストへの賛美、テロの犠牲者への追悼、聖書のことば―――
古今東西のさまざまな想いが、鈴木さんの即興演奏によってひとつに結ばれていく。
和声が確立される以前の、シンプルだが耳にこそばゆい中世の響きを味わったかと思えば、調性が崩壊した20世紀にタイムトラベル。計算尽くされた不協和音が私たちを襲う。
厳粛なパイプオルガンの音で責められ萎縮した心は、モーツァルトやバッハが美しい和声で救ってくれる。
1曲ごとに200~300年単位の時間を行き来しているとは思えないほど自然に構成されているが、合唱やオルガンの美しく神聖な響きはいつも心に問いかけてきて、様々な気持ちを想起させる。
休みなく喜怒哀楽を感じるうち、心の拠り所を探して神に祈る人々にひしひしと共感した。
ダンサーの小㞍健太さんがひとり、私の感情の揺れを代弁するかのように、舞台上で踊り続ける。
1時間のタイムトラベルからそっと戻ってきた観客たちによる、いつまでも鳴り止まない、じわりと染み入る川のせせらぎのような拍手が耳に柔らかく残った。
後編へ↓