ニコ生演奏家のパイオニア、『ピアニストyuri』(「Pianist Yuri × 華麗なるソリスト達との響宴」レポート)
YouTuberやキャス主、ニコ生主などと呼ばれる人が増え、
個人によるネット動画配信が当たり前となったいま。
音楽業界からも、積極的に演奏を配信し、それによって
知名度や仕事を得た人は数え切れないほど思い浮かびます。
ところでみなさん、ニコ生における、クラシックの演奏配信のパイオニア
「pianist yuri」さんって、ご存じですか?
ピアニストYuriとは (ピアニストユリとは) - ニコニコ大百科
私がyuriさんを知ったのは、彼女が演奏配信を始めてほどなくした2011年はじめ。
当時、「なにかクラシック音楽で面白いことやってる人いないのかな」とアンテナをとがらせていたので、すぐにyuriさんの存在に気がつきました。
腰まで届くまっすぐな黒髪を揺らし、情感たっぷりにピアノを弾く若い女性。
画面に流れてくる曲へのリクエストに明るく答え、セクハラ発言をスルーし、
おっとりしたしゃべり口で曲の解説をしている姿を見て、
世間がイメージする「THE★お嬢様ピアニスト」を
ここまで体現し、発信している人がいるのか!!と、衝撃を受けました。
その強烈な印象は、承認欲求でドロドロしていた当時のニコ生主たちとは一線を画する何かがあり、
yuriさんは瞬く間に人気配信者となりました。
ネットを飛び出して企画されたコンサートは満員御礼、様々な人とデュオやトリオを組み、共演相手の知名度も上げていきました。
そしてその様子を、テンションも変えず、逐一配信するyuriさん。
その自己プロデュース力にただただ感嘆すると同時に、
「彼女は何を考えて放送を続けているのだろう?」
という思いも膨らみ始めていたところ、
TheGLEEさんから、yuriさんの公演にご招待頂きました。
フルート、クラリネット、オーボエ、トランペット、チェロ、コントラバス、そしてピアノ…豪華編成です。
TheGLEEさんにここまで楽器が集合したの、見たことない!
公演では、初めての生yuriさんに不思議な気分になると同時に、
画面越しでは伝わってこなかった、彼女の細かな音楽も捉えることができました。
yuriさんの音楽性
ロシアを留学先に選らんだのも納得な、ひとつひとつが粒だった硬質な音色。
フライヤーには、「甘く妖艶な音」と書かれていましたが、
少し違うような…見た目の影響でしょうか?
硬質だけれど、冷たい音ではなく、
共演者の音を受け入れる余裕がありました。
でも、yuriさんはソリストなんだろうな、とも感じました。
ピアニストは、相手によって柔軟に音色や音楽性を変化させるカメレオンタイプと、
どんな相手でも我が道を行けるカリスマタイプがいますが、yuriさんはおそらく後者。
(どちらが良いとかいうことではなく、性質の話)
この前観に行った、鶯谷ファンタジックブラザーズの渡邊くんも同じです。
ペダルが少し多いように感じられたけど、それもyuriさんの個性のうちかなぁ。
なにより、弾き姿を魅せるのがうまくて、さすが映像慣れしてると感じました。
プログラム構成、共演者たち
慣れを感じさせるのは、プログラム構成でも。
ブラームスのクラリネットトリオなど、硬派な曲をメインに据えつつも
各楽器の特長が伝わるコンパクトな曲をジャンルレスに選んでいて
非常にバランスが良く、お客さんの空気がだれることがありませんでした。
※画像はyuriさんのブログ(ピアニストYuriのお部屋)よりお借りしました。
2部の目玉曲は、ラプソディー・イン・ブルー。
クラリネットの川畑麻衣子さんの技巧が冴え渡り、フルオーケストラ版を聴いている気分に。
「『演奏が情熱的だね』と言われます」とMCで語っていた
チェロのピーティ田代櫻さんは、情感豊かで私の好きな演奏をされるかたでした。
コントラバスの篠崎和紀さんと弦2人、安定感をもって合奏を支えていました。
フルートの石田彩子さん、オーボエの取附純佳さん、トランペットの岩波俊光さんは
それぞれソロ曲の選択が多彩で味があり、聴いていて楽しかったです。
MCの独特な魅力
そう、yuriさん、
MCが素晴らしかったんです。
ウケを狙うなど技巧に走らず、まるで今その話題を思いついたかのように話す雰囲気がとても魅力的でした。
上品な語り口でどこかマイペース。笑いを取ろうと思っていないだろうに、言葉のチョイスが絶妙で思わず吹き出してしまうシーンがたくさんありました。
わざとらしさは全くないのに、自然に聴衆を集中させてしまう不思議…。
天性のものなのでしょうか。いやあ、見習いたい…。
ネットで演奏活動することについて
「若い女性演奏家がネットで顔を出し、ファンを増やす(交流する)」ことについて、ネガティブな意見を持っている人も多いと思います。
「容姿に自信があるから、チヤホヤされたいだけ」
「演奏だけで勝負しないのはズルい」
聞こえてくるのは、だいたいそんな言葉。
実際、私も何人か「明らかにチヤホヤされたいが為に露出しているひと」を知っています。
でも、yuriさんは違うのではないか。私がそう感じたのは、終演後にyuriさんと実際すこしだけお話しさせてもらったからです。
(普段は演奏者のかたには声を掛けずに退散しているのですが、yuriさんは出口で一人一人をお見送りしていたため、自然とお話しする形になりました。)
顔を近づけて、はじめましての私の話を一生懸命聞いてくださり、満面の笑みで言葉を返してくれる。
その姿からは、「人によく思われたい」とか、「人に好かれたい」という思惑は微塵も感じられませんでした。
ただただ、演奏を聴いてくれたことへの感謝が伝わってくる笑顔。
ふいに、yuriさんがブログやインタビューで、たびたび発言していることを思い出しました。
普段クラシックを聴かれない方々、知らない方々に、クラシックの素敵な曲を紹介して、
知って頂く事が、そして少しでも「好きだな」って思える曲に出会ってもらえたら、とても嬉しいです。*1
yuriさんの活動の根底にあるのは「私を好いてほしい!」ではなく、
単純にクラシック音楽、そしてピアノへの愛情なのでしょう。
たくさんのピアノ弾きがニコ生に溢れた現在も、ファンが離れない理由が分かった気がしました。
純粋な想いを持って活動している人がちゃんと評価されているのだから、